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将棋めし 1巻/松本渚

最近、飯を食う漫画と将棋がブームとなっている。 

 
 

将棋の話

 2017年の夏、藤井聡太四段の登場により、何度目かの将棋ブームが到来した。過去に将棋ブームとよばれているものは何度かあったが、今回のブームは羽生善治名人が七冠王となった1995年から1996年頃の将棋ブームと比較されることが多い。

 そして私がこの文章を書いている2017年7月2日ついに藤井聡太四段(14歳・中学3年生)はデビュー以来初の敗北を喫し、将棋界としての公式戦最多連勝記録を「29」でストップさせた。

 その敗北はNHKでもニュース速報が流れるほどの話題性となった。

 藤井聡太四段の連勝はここにいたるまで速報レベルで取り上げられ、彼の一挙手一投足つまり行動のすべて、そして彼の発する言葉までもが全国的なニュースとなっていた。

食う漫画の話

 将棋の話はいったん置くとして、最近食う漫画が増えている。食をテーマにした漫画は今までもたくさんあったけれど、それはどちらかと言えば作ることに重点をおいた漫画が多かったように思う。

 以前は作り手として料理人と料理人がお互いの腕前とプライドをかけて争う、そんな漫画が多かった、言ってしまえば要は食の皮をかぶったバトルマンガだ。例えば「料理の鉄人」は、そんな漫画的発想、バトル漫画的発想から生み出されたテレビ番組だったと私は思っている。

 けれど、最近はどちらかと言えば食うことに話の力点をおいた漫画が増えている気がする。主人公はただひたすら食う。ひたすら食う。そしてその主人公はリアクション芸人のように、いろいろな手法をもってその味わいを伝える。

 食う漫画はだいたいにおいて深いストーリーはない。日常の延長線上において疲れた体を癒やすために飯を食う。それは、日々のストレスであったり、逆に嬉しい思い出であったり、至福の瞬間であったり、若干のウンチクであったりと何かしらを肴に食う。時と場合によっては呑む。食う漫画にそれ以上をもとめてはいけない。

 いや前にも紹介した(→link)「目玉焼きの黄身 いつつぶす?」のように食う漫画でありつつも魂と魂がぶつかりあう、生き方を問う漫画ももちろん存在する。

 

僥倖

 連勝を20に伸ばしたとき藤井聡太四段は「僥倖」という言葉を口にした。

 この僥倖という言葉に皆さんはどんなイメージを持つだろうか。

 私は僥倖という言葉から青田昇さんというすでに亡くなってしまった年配の野球解説者の方を思いだす。青田昇さんは野球解説者でありながら、激しい巨人びいきで巨人以外のことはあまり興味がなく、話題の8割が巨人の話だったように思う。パ・リーグの選手にいたっては、ほとんど選手の名前すら覚えることがないような方だった。けれど、この方は難しい言葉をたくさん知っており、また切り口が鋭く、野球そのものを熟知していて(パ・リーグの選手はあまりご存知なかったようではあるけれど)、ある種ご意見番のような存在だった。

 そんな青田昇さんはスポーツニュースの中で「この勝利は僥倖だよ、ダンカン」と語り、僥倖の意味について丁寧に解説をしていた。僥倖という言葉は何度か登場していたので、その時に私も覚えた。難しい言葉を使うけれど、分かりやすく自分の考えていることを、野球というものを伝える方だった。極端な方ではあったけれど、私は青田昇さんの野球観が好きだった。

 

 そんな理由からか、私は「僥倖」という言葉から故・青田昇氏を思い出す。

 けれど、インターネットの世界では「僥倖」で、故・青田昇氏を思い浮かべる人は少数派であり、「僥倖」といえば、おそらくはあのギャンブル漫画の主人公カイジを思い浮かべる人が多数派ではないだろうか、と思う。

 

「僥倖、なんという僥倖っ…!」

 カイジが口にする独特の言いまわしも含めて、脳みその片隅に強く、強くへばりついている方が多いはずだ。

 

 ところで「カイジ」は作者の福本伸行の手を離れ、いくつかのスピンオフを生んでいる。「中間管理録トネガワ」と「1日外出録ハンチョウ」がそれにあたる。

中間管理録トネガワ」にいたっては「このマンガがすごい2017」において1位を獲得している。この漫画はカイジの中に登場する印象的なフレーズ、例えば「悪魔的発想」だの、「圧倒的xx」だのを、頻出させることによりカイジの持つ雰囲気を強く醸し出している。中間管理職のマネジメントの、人材管理の漫画として、面白く、コミカルに描かれていて秀逸な作品だ。けれど、そのカイジの必殺フレーズの頻出度合いの高さによって、私には何か、カイジの悪しき拡大再生産のような、ネット上にあふれる粗悪なパロディ作品のような気がして、そこまでこの作品を好きだとは言い切れない。

 一方「1日外出録ハンチョウ」はあの帝愛グループの地下労働施設で、E班班長を務める大槻を主人公とした食う漫画である。大槻が普段の不自由から外れ、自由をいろいろな形で満喫する一風変わったグルメ漫画ということになる。こちらはどちらかと言えば私は非常に好きな作品ということになる。

 実は「中間管理録トネガワ」にも食うシーンが何度か登場する。不思議なことにトネガワの中の食う回は私はとても好きだ。そういった意味で私は食う漫画に心を強く惹かれているだけかもしれない。

  

中間管理録トネガワ(→ link) 

1日外出録ハンチョウ(→ link) 

 

 

もう一度将棋の話

 何度目家の将棋ブームと書いた。ワイドショーでも、連日、大きく藤井聡太四段を取り上げている。 

とはいえ、藤井聡太四段がどんな打ち筋を好むとか、どんな戦法や囲いを使うとかそんな話題はいっさい出ることなく、テレビのお茶の間的な、ワイドショー的な話題の中心は、彼の食事についてだ。

 

 もともとプロ棋士のお昼ごはんやおやつ、そして夕食については将棋ファンの間では話題になりやすいテーマであり、ファンの間では楽しみのひとつでもある。

 例えば羽生善治名人の「天ざるそば 天ぷら抜き」はあまりにも有名で、先ごろ引退した「昼もうな重、夜もうな重」の加藤一二三九段が「カキフライ定食とチキンカツ定食」を一度に注文したエピソードはすでに伝説の域に達している。

 

 藤井聡太四段の連勝は加藤一二三九段との対戦から始まったわけだが、この対局ではお昼ごはんに「みろく庵」の「味噌煮込みうどん」を注文している。

 東京での対局の場合、将棋会館近くの「みろく庵」「うなぎ ふじもと」「千寿司」「そば ほそ島や」の四つが、棋士の出前を取る店として有名だ。

 実は日本将棋連盟のウェブページはこのあたりの情報が充実している。

 

タケナカミカが突撃!将棋会館近くのおすすめグルメスポット7選【前編】|将棋コラム|日本将棋連盟

 

みろく庵では○○トッピングがブーム!?将棋会館近くのおすすめグルメスポット7選【後編】|将棋コラム|日本将棋連盟

 

将棋めしの話

 さて、本題である「将棋めし」という漫画について語りたい。

 その題名の通り将棋とめしに関する漫画となる。

 「将棋めし」の主人公・峠なゆた六段は若い女性のプロ棋士となり、女流棋士ではない。

 

 女流棋士とプロ棋士の違いとは何か。

 女性への将棋の普及の意図をもって作られた存在が女流棋士だ。女性でも奨励会に入り、三段リーグを勝ち上がればプロ棋士となれる。けれども、現在の将棋界には女性棋士は一人もいない。そういった意味ではこの漫画はファンタジーだ。

 けれど、この漫画に書かれている将棋とめしのエピソードは、現実の将棋から近い場所にあるように思う。

 作中でも「みろく庵」や「うなぎ ふじもと」、「ほそ島や」が登場し、棋士がどのタイミングでお昼のメニューを決断し、どのようにお金を払うのかが描かれている。

 もちろん将棋ファンの間ではニコニコ動画の中継などで、その様子を見ていて知っているため有名なことではあるかもしれない。

 

「将棋めし」に登場する棋士たちはお昼時、もしくは夕食時に食事、もしくはおやつを盤外戦としてを戦っている。いや、全員がそういうわけではないが、食事という重要な部分を戦いの一部としてとらえている。けれど、それは、強度のある争いとしては描かれていない。

 過去の有名騎士たちのエピソードのオマージュをくわえつつ、この物語は作られている。この漫画には今のところびっくりするような大きなうねりはない。おそらくは今後もそんなものはない。どちらかといえば将棋とプロ棋士について少しだけ知った入り口に立った新たなる将棋ファン向けの、ちょっとしたウンチクに役立つ物語だと思う。そいうった意味ではこの漫画は、食う漫画の延長線上にある。

  

鰻の話

 加藤一二三九段の影響か、この「将棋めし」には鰻が何度か登場する。

 この鰻が大変、美味そうだ。

 過去にモーニングという漫画雑誌で、ラズウェル細木が主人公の若旦那がひたすら鰻を食うだけの物語を連載していた。とても愉快な漫画ではあったけれど、あの漫画を読んで、鰻がうまそうだと思ったことは実は一度もない。

 けれど、「将棋めし」に登場する鰻は大変うまそうだ。

 私はそんなことを考えながらこの漫画を読んでいる。

 

 

 う (→link)

 

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