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初音ミクが世界を変えられなかった夜(ソニックマニア2013初音ミク&パフューム)

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 残念ながら初音ミクは世界を変えることは出来なかった。

少なくとも2013年においては。

 

 ソニックマニアはもともとはサマーソニックサマソニ)の冬ヴァージョンのような扱いではじまり、いつの頃からかサマソニの前夜祭的ポジションとなったオールナイトのイベント。特に夏に開催されるようになってからは踊れるアーティストやDJ、または独特の雰囲気を持つ出演者が多く選ばれ知名度も重要ではあるが機能的であることがより重要視されるメンバーとなった。

 

 2013年のソニックマニアはThe Stone Roses (ザ・ストーン・ローゼズ)、Pet Shop Boys(ペット・ショップ・ボーイズ)、電気グルーヴサカナクションPerfume(パフューム)と知名度においてもダンスというジャンルにおいても強力なアクトがそろった。

 その中でひときわ異彩を放つアーティストがブッキングされた。

 名前は初音ミク

 

 ここで初音ミクについて少し書く。私は実のところ初音ミクについては詳しくはないのでウィキペディアとその他資料に頑張ってもらった。

 初音ミクは00年代後半に登場したVACALOID(ボーカロイド)の人気キャラクター。歌声合成ソフトのパッケージに描かれたアイドル。緑髪でツインテールの少女。どんな難解な旋律も思い通りに歌いこなす。ボカロPと呼ばれるネット上の人々が次々に初音ミクの楽曲を公開した。

 その結果、パソコンソフトのキャラクターだった初音ミクはインターネット上から火がつき、ついにライブを行うようになった。

 

 その初音ミクソニックマニアに登場する。

 

 ソニックマニアのチケットをすでに買っているような人々は一様に困惑した。正直に言ってしまえば、同じ音楽とはいえ彼らの聴く音楽と初音ミクには少し距離があるように感じた。それでもどちらかと言えば好意的に迎えられた。

 噂には聞いている初音ミクという名で呼ばれるものに興味があったのも確かだし、ボーカロイドがライブを行うという不思議な現象にも惹かれた、そんな理由もあり多くの音楽ファンは、まだ見ぬ強豪初音ミクをひと目だけでも見たいという好奇心にかられた。

 もしかしたらザ・ストーン・ローゼズペット・ショップ・ボーイズといった年季のはいったアーティストを見たいと思っている音楽ファンたちとは異なり、サカナクションやパフュームを支持する若いファンは彼らとは違った感想を持って初音ミクの名前を受け入れていたのかもしれない。

 

  ソニックマニアは3つのステージにより構成されている。一番大きいクリスタル・マウンテンステージとその反対側の場所にあるレインボウステージ、その真中にはソニックステージ。まず22時にレインボウステージで初音ミクのステージが始まり、続いて22時15分にはMODESTEP(モードステップ、UK出身のダンスロックバンド)さらに22時30分にパフュームのステージが始まる。

 そう、初音ミクはすべてのこのイベントのオープニングアクトでもある。その気になればこの時間帯に入場しているすべてのオーディエンスを一手に引き受けパフォーマンスすることも出来る。

 

 私は毎回ソニックマニアで同じ過ちをおかしている。ソニックマニアはオールナイトのイベントの割には入場者数が多い。早めに入らないとドリンク購入にすら困るというのが定説だ。このため私はソニックマニアにサッサと入場し、ビールを買い、一つ目のライブが始まる前にすでに酔っ払っている。

 

 すでにレインボウステージにはたくさんのオーディエンスがいた。真ん中より前方には装備などによりパッと見ただけで熱心だなと分かる客層だった。具体的にはサイリュームを持っている男性のお客さんが多かった。一般的に洋楽が多く出演するイベントではサイリュームを持つことはメジャーでなく、使ったとしても手首にまくタイプのものを女性が使っているのを少しイライラしながらも許容するところくらいまでが普通だ。

 中盤から後方は初音ミクを一目見てやれという層が待ち構えていた。サマソニにメジャーな邦楽バンドが登場するとステージ後方で腕組みをして見ているような連中だ。

 もちろん、この会場にいるすべてのお客さんを集結させることは出来なかったけれど、それでもかなりの人数のオーディエンスを集めることに初音ミクは成功した。盛況だった。

 

 時間になり初音ミクのステージが始まった。

 

 動画がYoutubeにあったので貼っておく。本当に最初のさわりの部分だけではあるけれど。

 

 

 ここで私の感想を書く。私も中盤よりやや後方で腕組みをするメガネ君たちに囲まれ彼らがそうしているように私も一緒になって、眉ひとつ動かさず腕組みをして難しい顔をして初音ミクを見ていた。

  ディラッドボード(という透明なスクリーン、らしい)に映しだされた初音ミクはピカピカ光っていた。光の戦士という形容がピッタリくるような輝きだった。動きも滑らかで、ぎこちなさは一切なかった。

 過去にコーチェラですでに亡くなってしまった2Pacがホログラムで出演したことがある。私は2Pacのこうした演出には懐疑的ではあったが初音ミクを見てこの気持が吹き飛んだ。これぐらいクオリティがあるならむしろ亡くなったレジェンドと呼ばれるアーティストはすべてこの方式でステージを再現してしまって良いのではないか?

 まじめにそんなことを思った。体が無意味にピカピカ光る様はアーティストの神々しさを強調しむしろその偶像性を神秘性を増すのではないかとすら思えた。カート・コバーンなら絶対に拒否するであろうが。

 ただし気になる点もあった。その不自然さのない滑らかな動きが不自然に思えた。人とはもっとギコチナイ動きをするものである、という感情が沸き上がってきた。初音ミクは、スムーズでミスなく踊る様は美しく、アーティストとしては完成されていた。ただしそれはアーティストとしては正しくともアイドルとしては完成されていなかった。あまりにも滑らかで私には血の通ったものとは程遠く感じた。

 けれど トータルをしては素晴らしいパフォーマンスであった。この数分、ソニックマニア初音ミクを中心に回っていた。

 

 そんなことを考えているうちに一曲目が終わった。私は無意識のうちに時間を確認した。22時7分くらいであろうか。

 

 ここで唐突にソニックマニア初音ミクを中心に回ることをやめる。

 

 私の周りのお客さんたちが慌ただしくなった。

 

 初音ミクは多くのお客さんをレインボウステージに呼びこむことには成功した。でもそのお客さんを引き止めておくことは出来なかった。

  

 中盤から後方に陣取るお客さんたちは次々に初音ミクにお尻をむけ歩き出した。初音ミクとはこういうものだ、ということだけを確認し終わると彼らは役目を終えた傭兵のように振り返りもせず別の戦場へと向かった。22時30分から始まるパフュームのライブに備えて少しでも良い場所を確保したいんだろうか。しかしその意味では彼らは初音ミクを見ている時点でパフュームの場所取りという争奪戦には敗れ去っている。この時間からクリスタルマウンテンステージに向かったところでパフュームを良い場所で見ることなど出来るはずがない。

 私の頭に不安がよぎる。もしかするとパフュームのステージは規制がかかるかもしれない。ソニックステージのモードステップは新人でそこまで知名度も集客力もあるアクトではない。初音ミクから人がさーっと引いていく様子と、パフュームの過去のサマソニでの集客を考えるとありえない話ではない。私も決断を迫られた。予定ではもう数曲初音ミクを見ているつもりだったが、そのせいで次のパフュームのステージが入場規制のため見られない事態は避けたい。

 私もこのステージでの目的「初音ミクをちょっとでも見る」を達成することはできた。2曲めの途中、私も初音ミクのステージから離れることにした。

 もちろん前方の初音ミクがお目当てのお客さんたちはこのレインボウステージを離れることはなかっただろうが、中盤から後方の離脱率は相当のものだったように思う。少し大げさかも知れないし、記憶もおぼろげだが感覚としては中盤以降は1曲目の終わりから2曲目の途中で半減したのではないかと思っている。

 

 せっかくなのでパフュームについても書く。

 

 パフュームはこの2013年の夏フェス、ロックインジャパン(通称ロキノンフェス)においてトリに抜擢されている。おそらく出自がアイドルのアーティストとしては異例のことだ。でもしかし、そのライブ・パフォーマンスをご存知の方なら納得出来ると思う。それくらいに今のパフュームは圧倒的だし、圧巻とも言えるし、安定している。

 

 私がパフュームのステージに辿り着いた頃にはすでに結構な数のお客さんで埋まっていた。私はかなり後方に位置することになった。

 

 左右に違いはあるにせよ下の動画と同じようなポジションで私はパフュームを見ていた。

 

 

  2013年のパフュームはボクシングで言えば世界チャンピオンみたいなものだ。デビューしたての初音ミクが組み合う相手としては非常に厳しいアーティストだった。パフュームのライブを見てそう思った。

 

 パフュームのライブは実のところかなり踊れる。オーディエンス受けも良い。サマーソニックにも数度出演している。メンバーはライブ慣れ、フェス慣れしている。機能性が重視されるソニックマニアでもまったく問題なく彼女たちの曲は響いた。

 

 4曲ほどノンストップでガシガシとパフュームのメンバーが踊ったあと、アイドルチックなMC(3人そろってパフュームです)が入り、そこからさらに2曲踊り、もう一回MC。「男子っ」、うおぉぉぉぉぉぉ、「女子っ」きゃあぁぁぁぁぁ「そうでない人」「今日は出会いの場じゃけぇ」

 国内最大の邦楽フェスで大トリをこなすパフュームも、ヘッドライナーを洋楽バンドに据えるこのフェスでは一応アウェイという扱いになっている。が、そんなことを微塵も感じさせない風格があった。パフュームのダンスは生きている感触がひしひしと伝わってきた。アイドルとしても完璧だったがアーティストとしても完璧だった。無駄なところは何一つなかった。

 ラストの曲はチョコレイト・ディスコ

 パフュームのメンバーが「チョコレイト」と叫ぶと間髪をいれずにオーディエンスは「ディスコ!」と返す。「チョコレイト」「ディスコ!」「チョコレイト」「ディスコ!」 

 このコール&レスポンスを数回繰り返した後イントロに突入する。上の動画は曲に入った直後で、コール&レスポンスそのものは別のライブだがこのような感じ → link

 パフュームのライブはチョコレイト・ディスコの大合唱で終わった。早い時間帯ながら多くのお客さんを集客したし、盛り上がった印象的なライブだった。

 

 音楽は勝ち負けを競うものでもないし、フェスはアーティスト同士の勝負の場所などではもちろんない。しかし事実として2013年のソニック・マニアでは時間の重なる初音ミクとパフュームのライブの間でオーディエンスの大移動があった。

 

 この夜、初音ミクソニックマニアを訪れた音楽ファンの心に若干の鉤爪を残すことには成功した。けれど世界を変えるまでには至っていないと思う。

 

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