読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

vs. おすすめ

おすすめブログのカウンターとして始めたはずが、気がつけば薄っぺらなブログ

vs. ミスチル地蔵

f:id:ame774:20130825130633j:plain

 

ミスチル地蔵なんていなかった。

少なくとも2013年のサマソニ東京においては。

 

 今さらのようにあの時のことを書く。実のところ記憶もおぼろげだし、正しいことを書ける自信は何一つとしてない。そもそも私はジョニー・マーストーン・ローゼズだけが見たかったわけでスマパンにもミスチルにも思い入れはない。それでも書く。

 

 2013年のサマーソニックにおいて最大級の話題と言えば、もちろんMr.Childrenミスターチルドレン)とそのファンについてだった。いわゆる「ミスチル地蔵問題」というやつだ。

 

 フェスに出演経験の少ない人気アーティストのファンが、自分のお目当ての出演者を良い場所で見るために直前のアーティストの出演時間から場所取りをする、といったことは今までもわりとよくあること、だった。例えば過去のサマソニでもユニコーンやB'z(ビーズ)の時にそんな状況が発生するのでは?と危惧されていたし、実際にフジロックではOasis(オアシス)やRadioheadレディオヘッド)の時にいわゆる地蔵問題は起きていた。でも確かに問題視はされていたもののここまで大きな話題になることはなかった。

 

 2013年8月10日土曜日ネット上を「ミスチル地蔵」という言葉が駆け巡った。

 

 ミスターチルドレンのファンがその一つ前の出演アーティストのスマパンことSmashing Pumpkins(スマッシング・パンプキンズ)の時間帯から場所取りのため居座り彼らはステージ上のスマパンのパフォーマンスに一ミリの興味も示さず石化したかのように固まったまま時間を過ごす様がまるでお地蔵さんのようだ、と言うわけだ。

 

 サマソニサマーソニック)は東京と大阪で土日に2日間同時開催され、そのアーティストの大半が出演会場を入れ替わる形で両方の会場に登場する。

 

 スマパンミスチルという90年代に限定的な人気のあったUSロックから現在も多くのファンに愛される日本最大級の邦楽グループというの組み合わせはまず8月10日土曜日に大阪会場で実現された。10日に大阪で行われたそれ(スマパンのライブ)は惨劇として伝わった。あっと言う間にネット上にその話題は広まった。ミスチルファンは、場所取りのために最前列でも棒立ち。椅子に座っていた。レジャーシートをひいていた。などなど。

 

"Thank you for the warm reception. "

 

 これはヴォーカリストビリー・コーガンの言葉。「前座を見てくれてありがとう」と訳された。あまりにもお客さんの反応が悪かったため不機嫌になってステージ上でのオーディエンスに向けて放った皮肉として伝わっている。話題性十分である。

 ちなみにミスターチルドレンはヘッドライナー(トリ)というわけではなくその次のMUSE(ミューズ)というUKバンドがラストを飾っている。

 

 私は翌8月11日サマソニ東京で目的もなくさまよっていた。スマパンの演奏が始まる直前、マウンテンステージというところにいた。幕張メッセの中にある1ステージ。

 Carly Rae Jepsen(カーリー・レイ・ジェプセン)というカナダ人女性アーティストを見ていた。出来ることならこの可愛らしい女性アーティストをずっと見ていたかったが、怒りに満ち溢れた禿頭を見ることが出来るならそれも良いのでないかと思い、幕張メッセを出て、怒れる禿ことビリー・コーガン率いるスマッシング・パンプキンズを見に行くことにした。

 

 スマッシング・パンプキンズの全盛期は90年代でちょうどグランジ興隆期。ハゲたおっさんヴォーカリストと東洋人風イケメンのギタリスト(ジェームス・イハ)とケバい女性ベーシスト(ダーシー)とぶっ叩くだけが取り柄のドラマー(ジミー・チェンバレン)というなんだか、よくわからない組み合わせでいっせいを風靡したオルタナティブ・ロックバンド。しかし彼らの全盛期は長く続かずバンドは一度解散。バンドを復活させるも今いるオリジナル・メンバーはビリー・コーガンだけ。

 

 私は若い頃からずっとUKロック信者だったためUSロックであるスマパンにさほど思いいれがない。そのため正直なことを言ってしまえば、ミスチルファンが地蔵と化し、ビリー・コーガンが怒りまくるなら、それもよしと思っていた。むしろそれを望んでいた。「いやー大変だったんだよ、あの時ミスチル地蔵がさ…」って言いたかったんだ。歴史の目撃者になりたかったんだ。

 

 スマパンミスチルが出演するのはマリン・ステージと呼ばれるサマソニではもっとも大きなステージ。それはマリンスタジアム(野球場、千葉ロッテマリーンズの本拠地)すべてを使ったステージだった。過去にこのステージでOasis(オアシス)やColdplay(コールドプレイ)といったバンドの時には客数が多すぎるために入場規制がかかったことがあった。もしかしたらミスチルファンが多すぎて、入場規制がかかるかもしれない、と私は思っていた。が、それはまるで杞憂だった。

 

 通常、入場規制はアリーナ前方、アリーナすべて、スタンドの順番で規制がかかる。しかし、そんなものはまるでかからず、すんなりとアリーナ前方まで私は進むことができた。もう本当にあっさりと。とても簡単に。

 

f:id:ame774:20130811163902j:plain

 マリンステージ(マリンスタジアム)の様子。スタンド席。

 

f:id:ame774:20130811163907j:plain

 アリーナかなり後方。ここにいるお客さんが座ったり寝転んでいるのはサマソニではわりとよくあること。

 

 

 とにかく私はアリーナ前方までに進んだ。

 

 いなかった。私の周りにはいなかった。前日にネットをにぎわせていたミスチル地蔵なんて人たちはいなかった。みんな手をあげていた。拍手をしていた。動いていた。

 でも、この時私は違和感を感じていた。

 スクリーンにはスマパンのメンバーに加えて時折アリーナ前方のお客さんの顔がアップで映されていた。彼女たちは手拍子をうったり、手をあげたりしてはいるんだけど表情がなかった。表情というものを失ってしまった人形のようだった。生気がなかった。もしかしたら彼女たちは人ではなかったのかもしれない。

 2日ほど前、ソニックマニア初音ミクを初めて見た。その時の初音ミクのほうがよっぽど生きていた。サマソニのマリンステージにはそれくらいに生気がなかった。言うなれば死者の都といった形容がぴったりだった。人はたくさんいたし、みんな曲にあわせて何かしら動いているように見えた。でもそれらは生気を失い、弛緩したゾンビの群れのようだった。目に輝きがなかった。

 でも少しだけつけ加えると彼女らは自分がスクリーンに映っていることに気がつくと、表情を取り戻した。スクリーンに映ることにより命を取り戻したんだ!

 ビリーは怒っているようには見えなかった。しかし、今考え直すと彼は複雑な男だ。本心はわからない。MCが間にはさまれた。ビリーは静かに話し始めた。少し長めのMCだった。何を言っているかわからなかったけれど、日本に初めてきたのは21年前だということを語っているのは伝わってきた。時折何か思い出したようにスタンドを何度も何度も指差して、彼らは反応しないね、みたいなことを言っている。そしてもう日本に来ることもないかもしれないとも。どこまでが冗談でどこまでが本気かなんてわからないし、私達は困惑した。

 スマパンのライブは悪くなかった。ビリー・コーガンの独特の声もいつもどおりだった。そして禿だった。ベーシストは女性だった。原色の赤いワンピースを着たけばい彼女はダーシーのようだった。ギタリストはイハのようなイケメンではなかったけれど東洋人風だった。ドラマーもぶっ叩くだけのジミー・チェンバレンに近い雰囲気があった。今ここにいるスマパンは90年代のあの勢いのあるスマパンそのものではないけれど悪くなかった。

 「Today」のイントロが鳴った。有名な曲だ。ここで少し歓声がわいた。まだまだ前に若干のスペースがあったようだ。私の前のお客さんたちはアリーナ前方にあった空間を埋めた。前に少しつめた。私も彼らにくっついて前に進んだ。

 その直後異変が起きた。ビリーの歌がはじまると私のまわりの人たちはいっせいにビリーの頭を人差し指一本で指さした。

  上に指を突き上げるとか、拳を突き上げるとかそんな行為ではなく、いっせいにビリーの方を指一本で指さした。あまりの統一感に私はびっくりした。

 「Today」の次は「Zero」。わりと激しめの曲。気になったのでまわりを観察した。私のまわりのほとんどが大多数が両足をそろえてうさぎのようにピョンピョンとんでいた。おそらくスマパンのファンはあのハゲ頭を指さしたりしないし、そんなお上品なジャンプなんてしない。

 ずっとアウェーだったってこと。

 ここにはスマパンが見たい人なんていないんだ。Mr.Childrenを見たい人たちがスマパンに気をつかって接待しているんだ。

 その次の曲は「Stand Inside Your Love」だった。美しくて良い曲だ。ここで少しだけ私にとって救いがあった。それはスクリーンが客席を映した時のこと。肩車された白人の女の子が映っていた。この曲のサビを彼女は何度も何度も口ずさんでいた。なんだか映画のシーンみたいだった。このでかい何万人も収容するマリンステージにおいて私が見た数少ないスマパンを歌う生者だった。

 結論から言ってしまえばスマッシング・パンプキンズはあのサマソニの一番デカイステージのトリの2つ前でやるようなバンドではないということだった。悲しいことだけれど。かつてのファンを召喚することもできなかったし、ミスチルファンを楽しませることも出来なかった。もしアレがスマパンではなくTwo Door Cinema Club(トゥー・ドア・シネマ・クラブ)やPet Shop Boysペット・ショップ・ボーイズ)みたいな勢いのある若手やエンターティメントをわかっている古参アーティストだったら、ミスチルファンも楽しめたんじゃないかな。とは思った。

 でもスマパンのライブそのものは悪くなかった。

 だからこそ悲しかった。いろいろと取り揃えてはいたけれど、残念ながら今のスマパンにはパワーがなかった。残念なことに。

  ライブは終わった。ミスチル地蔵なんていなかった。そのかわりミスチルファンによる接待はあった。それが2013年のサマソニ東京におけるスマパンのライブだった。

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...