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Reflektor/アーケイド・ファイア

アーケイド・ファイアの4htアルバム

 ひとつ質問をしよう。あなたはいちご大福を好きだろうか?

 

 「いちご大福」について説明するのも野暮な話だが一応説明する。大福餅の中に餡と一緒にイチゴが丸々ひとつ入っている和菓子のことだ。大福とイチゴを同時に味わうことができてなおかつピリピリしてうまい。

 

ジェームス・マーフィーのプロデュース

 

 Arcade Fire(アーケイド・ファイア)は00年代に入ってからデビューしたカナダ出身のバンド、ギターがメインではあるもののいろいろな楽器によりサウンドが彩られ、実のところ私はメンバーの人数すら把握しきれていない(ウィキペディアによれば2014年7月現在7人)。前作の3rdアルバムでは全英・全米のチャート1位を獲得しグラミーでは最優秀アルバムを獲得した。00年代以降のもっとも重要なバンドのひとつである。

 私はアーケイド・ファイアのライブを直接見たことはないが2011年のコーチェラ・フェスでの動画配信にはひどく興奮し、そして動画配信そのものにすら感動を覚えた。アルバムで聴くそれよりもずっとエモーショナルであった。

 

 今回取り上げているアーケイド・ファイアの4thアルバム「リフレクター」はプロデューサーにLCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーを迎え、2枚組の大作に仕上がっている。2013年に発売されたアルバムである。

 LCDサウンドシステムはジェームス・マーフィーの一人プロジェクトといっても良いダンス・プロジェクトであり、実際のライブはバンド形式で行われている。日本にも何度か来日している。私もサマソニフジロックLCDサウンドシステムを見ている。私個人の感想を言えばその年のそのフェスにおけるベストアクト級のライヴ・パフォーマンスだった。こちらも00年代を代表するアーティストだ。

 LCDサウンドシステムについてもう少しだけ追加補足すると、ジャンル的にはディスコ・パンクもしくはダンス・パンクというようなバンド形式で踊れるエモーショナルな音楽を展開しながら、それでいてクールでどこか無機質で冷めた不思議な感触を与える存在だ。

 

 アーケイド・ファイアの新しいアルバムにジェームス・マーフィープロデュースというニュースが飛び込んできた時にはあまりにもビッグな組み合わせに私は興奮した。ビッグな組み合わせということもあるが、それよりも何よりも、自分が好きなものと自分の好きなものが掛け合わさった際にどんな魔法がうまれるのだろうか、という期待感の方が言葉としてはより近い。

 魔法という言葉を使った理由はアーケイド・ファイアLCDサウンドシステムという組み合わせが決して極上の組み合わせに思えなかった故で、むしろそのかみ合わない感をどうやって無理やりねじ伏せるかが一番の見所に思えた。

 

イチゴと大福の合体

 もう一度あなたに問う。

 あなたは「いちご大福」を好きだろうか?

 私はこう思う。「イチゴ」と「大福」は別々に食べたほうが美味しくないか。

 「いちご大福」においては「イチゴ」のフレッシュさは失われ、なおかつ酸っぱさがある。大福の甘さは「イチゴ」の酸っぱさに足を引っ張られていて、その力のすべてを発揮しているようには思えない。

 

 アーケイド・ファイアの新譜から先行して「リフレクター」という曲が届いた。アルバムタイトルと同じ曲名だ。

 この曲に対して私の抱いた感想は「なんか3年目の浮気みたいな感じでサウンドが大きく変わってる。」というものだ。

 正直なところかなりびっくりした。

 予想とは大きく異るサウンドだった。個人的にはジェームス・マーフィのクールなダンスサウンドを下敷きにアーケイド・ファイアの音が構築されたらよいな、と思っていたので想像とはまるで違う雰囲気に仕上がっていた。

 一番気になった点はリード・シングルにありがちな、たたみかける感じがまるでしなかったこと。ひどく抑制されている。アーケイド・ファイアLCDサウンドシステムにはクールでありながらエモーショナルであるという点で共通点があると思っていたが、この曲では爆発感、予感みたいなものがかなり抑制されている。コントロールされている。その辺りについて私は消化不良感を感じている。

 

 「いちご大福」は想像した味よりもはるかに甘くない。それどころかなぜかピリピリと酸っぱい不思議な酸味がする。甘いはずの大福と甘いはずのイチゴを組み合わせても何故か甘さは増強されていない。もし仮になんらかの手法により大福の甘さとイチゴの甘さがそれぞれの本領を発揮させることが出来たなら、とんでもなく甘い和菓子が誕生することになっただろう。けれど想像するにそれは美味しくない。おそらく甘ったるいだけの失敗作だ。

 

 アーケイド・ファイアの4thアルバム「リフレクター」は非常にトータルとして抑制の効いた良いアルバムとなっている。リズム隊は決して表舞台でおおっぴらに活躍することはないもののアルバムを通して誠実な音を奏でている。これはジェームス・マーフィーの功績ではないかと個人的には思っている。もし仮にアーケイド・ファイアとジェームス・マーフィーがそれぞれ自分たちのエモさを詰め込めるだけこのアルバムに詰め込んだら、とんでもない抑制のきかないモンスターが出来たことだろう。それは驚くべき成功作かはたまた致命的な失敗作のどちらかになっていただろう。でも、彼らはそんなアルバムは作らなかった。

 

 アーケイド・ファイアはここまでインディバンドとしての評価を最大級に受け、このバンドを語る際には必要以上に哲学的であったり知性的であったり生と死について語られたり文学的であったり、とにかく必要以上にシリアスに語られることが多い。

 

 この4thアルバムは冗長であり壮大であり美しくはあるものの決して必要以上にシリアスに語られるべきものではない、と私は感じている。

 

 「いちご大福」は残念ながら「イチゴ」と「大福」のその両方の良さを一度に感じることは出来ない。しかしピリピリとした独特の不思議な食感を味わうことができる。これは他の食べ物では叶わないことだ。それだけで十分ではないだろうか。

 

 

 

 

 

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