読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

vs. おすすめ

おすすめブログのカウンターとして始めたはずが、気がつけば薄っぺらなブログ

陳舜臣と中国の歴史小説

読書 雑文 日常
 

 1月の終わりに作家の陳舜臣が亡くなったというニュースが流れた。このニュースを聞いた時、私は少し驚いた。実は私はこの時まで陳舜臣という作家が存命であったことを知らなかった。いや、そもそも陳舜臣という作家についてはその作品をいくつか読んだことがあるだけで、陳舜臣という作家がどんな人物なのか、というところまでは深く考えたことがなかった。

 陳舜臣はおそらく二つの代表作において特に有名ではないかと思う。

 一つ目は秘本三国志。この物語は「秘本」という怪しい、いや妖しい言葉がついている作品ではあるが、読むと分かるが正当な、とても正当な三国志だ。劉備が漢の高祖の正当な子孫ではないかと思わせるほどに正当な三国志だ。物語は、張魯の母親・少容から始まる。その点でいきなり読者の度肝を抜く。この秘本三国志がどこからはじまり、どこへ行こうとしているのか読者にはさっぱりわからない。張魯という人物は五斗米道の教祖という特殊なポジションで登場するものの三国志の中ではかなりの脇役で少なくとも英雄・英傑の部類ではない。物語の半ばから後半にちょろっと登場するだけの人物だ。その母親など通常の三国志ファンでは存在すらも知らないほうが普通だ。そもそも少容という名は陳舜臣のつけたオリジナルの名前である。そんな名前すらない人物が物語の根幹に関わってくる。少容は40代ではあるけれど20代の容姿を持つ美しい女性として登場する。物語の冒頭がこれなのでやはり「秘本」という言葉は何やら妖しい内容の示唆なのかと読者は一瞬疑う。けれど、この秘本三国志三国志らしさを満喫したままきっちり終わる。全6巻。美しく無駄がない三国志。いくつかの三国志を読んでいる方ならば、この三国志は読んで絶対に損はしない。

 

 

 二つ目の作品は小説十八史略。実は私はこの物語は一巻の途中までしか読んでいない。というのも、とある人物に特に興味があったからだ。高校生時代に私がもっとも好きだった物語「水滸伝」の登場人物に花栄という名の好漢がいる。花栄は男前の痩身。そしてもっとも有名なのは弓の腕前で百発百中。梁山泊軍が危機の時には必ず登場し、梁山泊の危機を救う。弓以外の武芸にも優れ計略や知謀にも優れており、水滸伝に幾多も登場する好漢たちの中でも公孫勝と並ぶくらいのチートな存在である。そんな花栄のアダ名が「小李広」。その昔中国には李広という名の英雄がいて、花栄はその李広の再来のようだ、というわけだ。花栄の元祖つまり李広という人物に興味があったので十八史略のうち李広の登場する史記の部分だけを読んだ。中国の王朝が次々にめまぐるしく展開していくこの物語は、王朝が変わるという歴史を経験したことがない私達にはなかなか理解しづらい面もあり、目的の李広の部分に到達したところで私はこの物語は途中で読むことをやめてしまった。

 ちなみに李広は漢の時代の人物で「飛将軍」とも呼ばれている。「飛将軍」といえばあの三國無双とうゲームの中でももっとも有名で圧倒的な存在のあの呂布の通称でもある。そう、三国志中最強の豪傑呂布にしても、いにしえの李広のようだと恐れられたのだ。

 その呂布花栄の元祖ともいうべき李広は史記の中では確かに強く圧倒的ではあるが不敗ではない。戦いに敗れ捕虜となり、なんとか脱出して都の長安へ戻るものの、その罪を問われ平民に落とされる。そしてその後の李広は不遇でしかなく、再び戦場へ戻った李広も良い戦果を得ることができなかった。私が小説十八史略を読むのをやめてしまった理由がここにあるのかもしれない。当時、高校生くらいだった私にとって英雄であるはずの李広の生涯が決してそれらしく見えなかった。李広が花栄呂布のような絶対的なチートさを想像させなかった、という部分がこの物語を読み進めるということに前向きになれなかった原因だったように思う。

 

 

 実は陳舜臣の亡くなる少し前、1月の半ばころから私は陳舜臣の作品「耶律楚材 草原の夢」という作品を読みたいと思っていた。耶律楚材はチンギス・ハーンの建国したモンゴル帝国初期のブレーンである。耶律楚材という名前の通り、モンゴル人ではなく中国は遼の国の出身である。つまりはモンゴル帝国にとっては外国人であり、逆に言えばモンゴル帝国が元として中国の王朝に名を残した際に、礎をつくった官僚でもある。元という国は中国なのかモンゴルなのかわかりにくい部分があるけれど、モンゴル人がもとからあった官僚組織を利用して中国を統治した時代ということになる。元の時代は宋の時代の少し後ということになる。宋はあの水滸伝の時代でもあり、元が北走をすると明の時代がやってくる。私は最近、このあたりの時代に若干の興味がある。

 話を耶律楚材に戻す。耶律楚材はそのモンゴル帝国に外国人として仕えた。「耶律楚材 草原の夢」はその外国人ブレーンとしての苦労と野心について語られた作品ということらしい。

 陳舜臣はその名が示す通り、生粋の日本人ではない。日本生まれではあるものの台湾人として生まれ、いったんは中国国籍を取得する。その後、天安門事件を機に日本国籍となっている。

 耶律楚材にどこか陳舜臣は自分の姿を重ねあわせたといってしまうと少しうがった見方になるのだろうか。とにかく私はこの物語をまだ読んでいない。機会があれば是非読みたいと思っている。

 

 

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...