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ディック感覚とIngress(イングレス)

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あなたは本当にあなたか

 胡蝶の夢という言葉がある。

 古代中国の思想家荘子の思想を象徴する寓話だ。

 夢の中で蝶のように舞っている時に不意に目が覚めたとする、その時、自分は本当に人なのか?蝶が見ている夢ではないのか?と自我がグラグラと揺らぐような不安定な気持ちになることを示している。世界とはそれくらいにもろく、不安定で、はかなく、不確かなものなんだ。

 

 少しでも知性のある人間ならば、今こうして存在している自分が本当に真実の自分なのか?というゆらぎが訪れることが必ずあるはずだ。

 自分がもしかしたら蝶ではないのか?という気持ちは少しファンキーすぎるようにも思えるが、自分が自分以外の誰かに見られた夢ではないのか?と考えたことは誰しもあるに違いない。

 

 フィリップ・K・ディックの小説を読んでいると、だいたいどの作品であっても、そんな読書体験をすることになる。

 いつもどおりの代わり映えのしない日常を生きているはずの主人公達。ある日突然、虚と実が入り混じり、現実と思われていたことが次々に崩壊する。自分の拠り所としている部分が次々に失われていき、自分という存在そのものがゆらぐ。そう「胡蝶の夢」とはまさにこんな感じではないだろうか。人はそれを「ディック感覚」と呼ぶ。

 

 

Ingressで発生するディック感覚

 話が変わるが最近私はグーグル社の提供するingress(イングレス)というiPhoneアプリのゲームをやっている。

 イングレスの内容は現実の世界を舞台にした位置ゲーで、2つの勢力、エンライテンド(緑)とレジスタンス(青)に別れ、ポータルという拠点を奪い合い、このポータル同士を線で結び三角形を作る陣取りゲームということになる。基本的にはこれがイングレスの遊び方のすべてだ。

 位置ゲーということで当然イングレスは位置情報を利用している。ポータルは現実のオブジェ、記念碑、彫刻、郵便局、駅、壁画、お地蔵さんなどに紐付いて存在している。スマホの画面つまり自分がいる付近のマップを睨みながら近くに存在するポータルを探し、そこまで歩いて行き、次々に占領していく。けれど占領するためにはアイテムが必要でこのアイテムはポータルをハック(スマホの画面をタッチ)することにより獲得することができる。

 私の住んでいる名古屋のはずれでは、ポータルも少なくレベル上げもなかなか難しく時間がかかる。ところが一週間くらい前に唐突に全国のローソンすべての店舗がポータル化した。これは価値の転換だった。今までは画面を睨みながらお地蔵さんや記念碑、銅像、変わった看板などを探すゲームだったが、突然ローソンを探すゲームに変わった。おそらく田舎であれば田舎であるほどそうなると思う。そんなわけで私の住む地域も恩恵を受けた。ポータルが増えたことについては嬉しいけれど、これは情緒というものに欠けていてその点において残念に感じている。ひとつのことを追求すれば、もう一方の何かを犠牲にしなければならない。わかりやすいトレードオフの代表例だ。

 

 イングレスはレベル8になってやっとチュートリアルが終わるゲームと言われている。そういった意味では私はまだまだ初心者の部類に入る。

 

ナナちゃん人形

 そんな初心者の私がイングレスを楽しむにおいて好きな場所がある。それはもちろん名古屋駅周辺。ポータルが山のようにあって軽く一周するだけでものすごい経験値を得ることが出来る。ただしバッテリーの消耗も激しく、街角、街角でいちいち立ち止まりiPhoneの画面をのぞく私は不審者でしかない。

 スマホGPSの機能を使ったこのアプリでは高いビルの隣に立つと自分の位置情報の取得が揺らぐ。名古屋にはナナちゃん人形という有名な身長6メールほどの巨大なマネキン人形がある。これももちろんイングレスのポータルとなっている。ここで、この人形の真下でナナちゃん人形のポータルをハックしようと頑張っていた私ではあるが、隣にある名鉄百貨店の建物が干渉してか自分の位置をうまく取得できないでいた。

 

ジョン・レノンとディック感覚

 私はここにいる。 元ビートルズジョン・レノンならI'm just standing hereとでも言うだろうか。「僕はここにいるよ」。正確にはナナちゃん人形の下だ。けれど私のイングレスは、iPhoneGPSは私がここにいないという。私の居場所は画面の中ではグラグラと揺らいでいる。しょせんは機械野郎だ、ただのアプリでしかない。真実という奴がわからない。けれど、本当に私はここにいるのだろうか。私が正しいのだろうか。私が間違っていて、iPhoneが正しいのではないだろうか。私は蝶に見られている夢ではないか。アンドロイドではないのか。生きているのか。リコール社により作られた偽物の記憶ではないのか。iPhoneの画面を高層ビルの隣で眺めているとそんなディック感覚に襲われることがある。

 

 

 

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