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夏草の賦 上/司馬遼太郎

 

 この物語は可能な限り早くNHK大河ドラマにしたほうが良いのでは?と思った。それくらいに最近の大河ドラマ要素を兼ね備えている。もちろん面白い。

 

 夏草の賦(なつくさのふ)は四国(土佐)の戦国時代の武将、長宗我部元親を主人公とした司馬遼太郎歴史小説

 長宗我部元親が美濃より明智光秀の腹心斉藤利三の妹を正室に迎えたところから始まり、四国統一に手がかった丁度そのタイミングで来た織田信長の臣従の勧告をはねつけたところで上巻は終わる。

 

  私は小学生くらいの頃からずっと日本の歴史が好きだった。歴史が好きになる小学生の王道として一番最初に好きになるのはもちろん戦国時代だ。けれど今と違い、そこまで情報にあふれていなかった。今のように「戦国無双」だの「戦国BASARA」だののゲームはまだなく、あって「信長の野望」程度だった。当時の私はまだ司馬遼太郎という作家もほとんど名前くらいしか知らず中国の歴史小説を書いている人という認識だった。

 長宗我部元親という人物は名前くらいしか知らなかった。そういった意味では、例えば「戦国無双」や「戦国BASARA」などでキャラクター付けされているこの四国の戦国大名をゲームにより親しんでいる今どきの小学生や中学生の方が当時の私なんかよりも遥かに知識のレベルが高い。それに今のウィキペディアに掲載されている情報だって当時の私の長宗我部元親の知識よりも遥かに豊かだ。

  私の世代よりも今の若い世代の方が情報量が圧倒的に多いということを戦国大名一人比べてみても実感する。

 

  長宗我部元親は土佐(今の高知県)の1/3程度をおさめる戦国大名織田信長よりちょうど5歳若い。少年のころは色も白く臆病で「姫若子」と呼ばれていた。父の急死により家督を継いだものの天下どころか四国統一ですらはるか夢の彼方。

 

 冒頭、長宗我部元親の正室となる菜々から物語は始まる。菜々は明智光秀の腹心斉藤利三の妹。明智光秀はもちろん織田信長の将来有望な家臣。ところで実はこれは物語の中の話であって史実とは異なる。当時明智光秀はまだ諸国を放浪中の身で、斉藤利三が明智光秀の腹心となるのは後の出来事となる。

 話を菜々に戻す。話の冒頭は菜々と明智光秀羽柴秀吉織田信長のやりとりで構成される。

 最近のNHK大河ドラマの傾向として戦国時代ものの場合、これでもかとばかりに織田信長など有名武将の登場シーンは引き伸ばされる。時間的なこともあるけれど、どちらかと言えば物語の出演話数が増えるような印象。信長のいた時代は長く、それ以降は短く。直接的に視聴率ということも関係あるのかもしれないけれど、やはりわかりやすい人気俳優などを当てているケースも多く、出演場面を増やしたいのだろう。そういった意味で、「夏草の賦」は冒頭、織田信長羽柴秀吉明智光秀とオールスター級の登場人物で恵まれている。

 

 この物語では長宗我部元親は天下に近い男としてまだ中央に名前が登場したばかりの織田信長を恋焦がれる乙女のように何度も自分と比較する。

 

 長宗我部元親の正室菜々は魅力的な女性として描かれている。この物語の主人公は菜々ではないか?と思える場面が何度もある。いや誇張ではなく、本当に司馬遼太郎もそう思って書いていたのではないだろうか。とにかく菜々の魅力が「夏草の賦」の面白さの源でもある。そしてもちろん菜々と元親のやりとりが面白い。これも最近のNHK大河ドラマには重要な要素だ。戦国時代モノのふりをした亭主と妻のメロドラマ。そしてそこに天下人になろうとする織田信長の陰がちらつく。これを大河ドラマにせずになんとする。

 

 ただしこの物語に若干弱点があるとするならば長宗我部元親はいわゆる英雄とは異なる。姫若子と呼ばれた気質を青年になっても受け継いでいる。必ずしも強い気持ちで決断しない。迷う。もちろん最後は迷いなしなんだろうけれどもその過程において不思議なくらいに迷う。そしてその決断も決して清廉潔白といえるものではない。謀略、奇略の部類だ。菜々の魅力が太陽の日差しとするならば、長宗我部元親の魅力は月明かりのような魅力だ。

 

 長宗我部元親は土佐を統一し、阿波と伊予、讃岐に手がかかる。そこで突然現れた臣従を迫る織田の使者(菜々の兄で明智光秀の配下)を追い返す。織田との決戦がせまる場面で上巻は終わる。

 

 

 

 ※ちなみに下巻では羽柴秀吉と漫画「センゴク」の主人公、戦国史上最も失敗し挽回した男こと仙石秀久が登場します。 下巻の感想はこちら→link

 

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